● C'est le meileur vehicule en France !●
〜モトベカンはフランスで最高の乗り物さ!〜
Intervieweuse :Emi NECOZAWA
パリ、20区。下町の活気溢れるシャロンヌ通りの一角に、1910年代から親子三代続く老舗オートバイショップ‘シクロ・デルケヤー'がある。パリの数あるバイクショップの中でも、モトベカンのスペシャリストを誇るこの店は、販売からメンテナンスまでパリの幾多のモトベカン愛好者を見守り、支えてきた。そのショップの奥…瀟洒なアパルトマンの1Fにあるガレージで、30年間エンジニアとして働き続けるモトベカンのプロフェッショナル、アランにフランス人にとってのモトベカンとはいかなるものなのかを聞いてみた。このインタヴューは、自らを‘モトベカン狂'と語る、あるエンジニアの心温まるメッセージ。
N-あなたがこの仕事を選んだのはどうしてなの?
僕はヴァンリュー(パリ郊外)生まれなんだけど、亡くなった父の親友が近くでバイクショップを営んでいて、小さなころからバイク好きだった僕を見た父が、その親友に頼んで14歳のときに店に弟子入りしたんだよ。そこでまず3年間、見習いとしてオートバイやモトベカンの修理の基礎、車体構造をみっちり仕込まれた。昔のバイクは、今みたいなハイテクバイクではなくて、ひとつひとつが手作業で作られたものだったから、仕事がすごく楽しかったな。ガレージに長く乗られたモトベカンを修理に持ってくるお客さんがやってきて「やあ!調子はどう?」なんておしゃべりしながら修理するんだ。のんびりしていていい時代だった。TVもなくて、娯楽も少ない時代だったから、休みの日はみんなで自転車やモトベカンにお弁当をつんで、よくピクニックに出かけたものさ。‘シクロ・デルケヤー'のガレージにきてからは、かれこれ30年だけど、エンジニアとしては、気がつけば42年間もバイクに携わってきた。今では長年の経験も手伝って、なんでも修理できるようになったよ。特にモトベカンのことなら僕に聞け!っていう具合にね。
N-「小さなころからバイク好き」って、何歳くらいからモトベカンに乗り始めたの?
6歳のときにはもう乗っていたな。そう、こんなちいさなときだよ。(と、6歳のころの自分の背丈を手でしめすアラン)今はもうパリ郊外も開発が進んで町になってしまったけれど、僕が6歳のときは自然がいっぱいで、人のいない公道やら山道で父と一緒に練習してたんだ。
N-今まで何台くらいのモトベカンに出会ってきたの?
うーんと…修理車両も含めて1000台、いや2000台は関わってきたよ。とにかく毎日の生活にも仕事でもモトベカンに乗らない日なんか1日もなかったよ。僕の生活にはかかせない相棒なんだ。多分これは僕だけじゃなく、フランス人の多くがモトベカンと共に大人になって、人生を走ってきているんじゃないかと思う。
N-フランス人は14歳(モペットに乗れる最低年齢)になると、まずモトベカンを両親からプレゼントされるって聞いたけど、本当?
今は交通機関が発達してしまって、多少事情が変わってきているかもしれないけれど、特にひと昔前はそうだったんだ。今でも‘フランス人が手にする最初のモーター付乗り物'はモトベカンだったり、他のモペットだったりするのは変わらない。‘子供の乗り物'としては贅沢だけどね!贈る側の親たちも若いころ、そのまた自分たちの親にプレゼントされているからやっぱり自分の子供にも乗ってもらいたくなっちゃうんだろうね。モトベカンに乗って学校に通い、買い物に出かけ、好きな女の子とデートする。30代以上の‘モトベカン世代'のフランス人には、そんな思い出もいっぱいつまったモペットだから、長年フランスで愛されているんだ。
N-私が始めてモトベカンを見たのは、かれこれもう15年も前、フランス映画の中だったんだけど…
そうそう。よく登場するよね。やっぱり‘フランスの象徴'みたいな乗り物だから、映画監督もリアルなフランスの日常風景を表現するのにモトベカンを使いたがるんだ。そういえば3年前、CANAL+(カナル・プリュス)っていうフランスのTV局が、うちのガレージから年間30台ものモトベカンを借りて、映画やTVドラマの撮影に使っていたよ。
N-ああ、CANAL+(カナル・プリュス)って、よく映画のスポンサーなんかもしていることで有名なTV局だよね。
そう、それ。映画といえば、日本でも流行ったのかな?‘アメリ・プーラン'(映画‘アメリ'の仏題)で、ニノがブルーのモトベカンに乗ってたよね。モンマルトルの坂を、こう、すいすい〜っと走ってさ。あれがまさに‘パリの日常'だよね。キミもパリでモトベカンに乗ってるけど、どう?
N-私はね、セーヌ川岸の道をよく走るんだけど、ときどき本当に感動しちゃうの。「ああ、映画の中にいるみたいだ」って。モトベカンをパリで乗ることは、モペット好きの私の夢だったから。ルーブル美術館を左手に、セーヌ川をはさんで右手にはオルセー美術館。街全体が芸術品のようなパリには、本当によく似合う美しい乗り物だとしみじみ思う。それにモトベカンに乗っていると、本当に毎日いろんな人から声をかけられるの。「キミのモトベカンはなんて状態がいいんだ!僕も持ってるよ。」なんてね。
ああ、そうだろうね。今のハイテクバイクにはない‘走りの楽しみ'があるよね。スピードはハイテクバイクにはかなわないけど、モトベカンにはそれは必要ないと僕も思うんだ。自分のペースで走って、街をゆっくり眺めて、風を感じて、木漏れ日を浴びながら乗る。乗り物本来の楽しみとエスプリに満ちているよね。モトベカンに乗っているときは、古きよきフランスが蘇ったような、そんな気分になる。街でキミに声をかけてくる人たちも、東洋人のキミがぴかぴかのモトベカンに乗って、そのエスプリを理解していくれていることに、フランス人の誇りと喜びを感じるんだよ。「どうだい!僕らの国のナンバーワン・モペットの乗り心地は」ってさ。
N-そうやって声をかけられるたびに「フランス人にとってのモトベカンって一体どうゆう存在なんだろう?」っていつも思うんだけれど。
ノスタルジック、誇り、フランスの乗り物の象徴、この3つかな。それぞれが持っている子供時代のなつかしい思い出をモトベカンが蘇らせるんだ。車体もすごく洗練されていて、クラシックなスタイルなのに丈夫でよく走るから親子二代にも渡って乗っている人も少なくない。そうゆう見た目だけじゃないモトベカンをフランス人は愛すんだ。合理主義のフランス人に気にいられるのは、実はとても難しいことなんだよ。きれいなだけじゃ、フランス人は決して認めてくれないからね。
N-最後に、あなたが一番好きな乗り物はなに?
えっ、そんな質問するの?!モトベカンに決まってるじゃないか(笑)とくに僕はブルーが好きなんだ。一生こいつに乗り続けるつもりだよ!キミもだろ?
N-もちろん。今日はモトベカンの素敵な話を沢山してくれてメルスィ!アラン。
P r o f i l
Alain WESTERMANN (アラン・ウェステルマン)
1948年1月18日、パリ郊外のLaghy(ラニー)生まれ。モトベカン・エンジニア。妻、11匹の猫と暮らす大の猫好き。
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