〜パリのモトベカン通信〜 Motobecane et moi
フランス国民に愛され続けるモトベカン。ここでは、
モトベカンに日々乗り続けるパリジャン、パリジェンヌたちのリアルな声を集めてみました。

パリ在住のミュージシャン猫沢エミさんが、現在パリで愛車として乗っているモトベカン50について、インタヴューに答えてくれました。これは、そんな彼女からのパリ通信です。

●モトベカンとの出会い
かれこれ10年近く前に、雑誌‘BRUTUS’で‘フランス物特集’という号がありまして、その誌面で‘フランスを代表するモペットMOTOBECANE’という記事を見つけ、ひとめぼれしてしまいました。あまりにもスタイリッシュで「こんなバイク見たことない!」と衝撃を受け、なんとか手に入れられないものかと悩み、一時は個人輸入まで企てましたが、費用に100万円ほどかかってしまうことがわかり、断念。その当時は、まだ日本に輸入されていなかったのです。それから、様々なモペットに乗ってきて、パリに住み始めたころは日本でも所有しているプジョーの‘VOGUE’というモペットに乗っていました。このモペットも今も変わらず大好きなのですが、モトベカンは私が‘モペット・マニア’になるきっかけを作った‘初恋の人’で、「パリに住んだら、絶対に乗ろう」とずっと思い続けてきました。私がパリに引越しをした原因のひとつは、モトベカンに乗りたいと10年間思い続けていたから、というのは絶対にありますね。

●乗り始めてみて
憧れたものというのは、実際に触れてみると意外と期待を裏切られることが多いのですが、モトベカンに関しては、実際に乗ってみてさらに心うばわれました。この手のモペットは、ひとつひとつが手作りなので、車体によって個性が違う。そして、走行距離をのばしてゆくとエンジンの鳴りや立ち上がりのスピードなども変化していくんです。生き物のように変わってゆく感触がたまらなく良い。それでいて、どんどん乗り心地がよくなってくるのがわかるんです。パリでも毎日生活の足として乗っていますが、モトベカンで街に出ると街の人たちや、平走しているバイク乗りのムッシュたちに、本当によく声をかけられる。多いときで10人ほどにも。そして短い信号待ちの時間に、彼らが熱心に私のモトベカンを褒めてくれたり、自分のモトベカンはこうだ、とか若いころに乗っていたモトベカンの思い出話をしてくれるんですね。フランス人は、こだわりの強い人たちですから、めったなことではここまで褒めてくれない。けれど、モトベカンについては誰もが「これはフランス人の誇りなのさ!」と、満足そうに語るのを見て、正直ちょっと驚きました。そして、モトベカンに乗ったお陰で、そういった人たちとの楽しい交流がパリのいたるところでできて、本当に幸せだなって思います。パリを横一直線に走っている‘リヴォリ通り’を抜けて、コンコルド広場をぐるっと回転しながら右手にエッフェル塔を眺める。そして、セーヌ川沿いの道を左手にルーブル美術館、右手にはオルセー美術館に囲まれながら走る。これが私の定番コースなのですが、初夏の風が心地よいとき、そして深夜、やわらかなオレンジ色の街灯にライトアップされた街を抜けてゆくとき、「このモペットは、パリを走るために生まれてきたんじゃないか」と、つくづく思います。クラシックな街の風景に溶け込むようなデザインと粋な走り。そもそも、パリもモトベカンもフランス人が作り上げた傑作ですから、双方が鳴り響くようにマッチするのは当然なのかもしれません。

●モトベカンの便利な点
なんといってもメトロ(地下鉄)に乗らなくてすむところ。日本の地下鉄とは違って、必ずしも清潔ではないし、駅や時間帯によっては怖い思いをすることもある。それに終電を気にせずに行動できるのもいいですね。行動範囲もぐっと広がりました。パリでは、毎年5月6月のヴァカンスの前に、大規模なストライキがおきるんです。日本のストとは違い、こちらは「やる」といったら本当にストライキしてしまう国。ひどいときは3ヶ月も全ての交通機関がストップすることもあります。そんなときも、モトベカンは大活躍でしたね。スト中、どこも道は大渋滞しますが、スリムなモペットですから、車の隙間をすいすいと抜けて走るのはちょっといい気分でした。そして燃費も良いし、経済的。ペダル脇の回転盤にあるスイッチをひねれば、車体重量からは想像もできないほど軽く漕げる自転車に早変わりします。モペットは通常冬場エンジンが、かかりづらくなって苦労したりすることが多いんですが、モトベカンは違う。ペダル周りの性能が高くて、エンジンも軽々とかかります。エンジンがなかなかかからないというのは夜のパリではちょっと危険なんです。怪しいムッシュが寄ってくる原因になったりするもので…。それと、買い物にはとっても便利ですね。たとえばインテリアショップなどでちょっと大きめのものを買うとするじゃないですか。そんなとき日本ならば送料がタダになったり有料でもそんなに高くはなかったりするけれど、パリはとても高い。へたすると買ったもの本体よりも高いこともあって、「これじゃあ意味がないじゃない!」なんてこともしばしば。なので、パリでは無理やりオープンカーに冷蔵庫を積んだ曲芸みたいな車とか、信じられないほど大きな荷物を無理やりメトロで運ぶ人たちを普通に見かけるんです。そんなとき、モトベカンがあれば荷台には相当のものが詰めますし、男手を借りる必要もない。とにかくこの街では‘1人でなんでもなんとかする’というのが基本なので、下手なボーイフレンドよりも確実に私を助けてくれる力強い相棒ってところでしょうね。

●モトベカンと私の今後
10年前には夢にまで見た日本での輸入が始まり、本当に嬉しいです。私が体験してきた感動の数々を、ぜひ1人でも多くの方々に味わってもらいたい。いつか日本に帰国すると思うのですが、もちろん日本でもモトベカンに乗るつもりです。というか、一生おばあちゃんになっても乗り続けたいな。将来子供ができたら、これで子供を幼稚園まで毎日送っていくおしゃれなママンになるのが目標です。日本も渋滞や狭い道などが多く、パリに近い道路環境なので、モトベカンは絶対にマッチすると思います。そして、パリのように、街へ出ればモトベカンに乗っている沢山の人たちに出会える…それが、私の新しい夢ですね。

P r o f i l
●猫沢エミ 文筆業、映画解説者、グラフィティーライターなど多方面で活動するパリ在住ミュージシャン。プロのバイクレーサーだった父の影響で、子供のころからバイク好きとなり、現在では数種類のモペットを乗りこなす、日本一のモペット・マニア。PEUGEOT社製‘VOGUE’のイメージキャラクターも務めている。
http://www.necozawa.com

〜パリのモトベカン通信〜 Motobecane et moi

● C'est le meileur vehicule en France !
 〜モトベカンはフランスで最高の乗り物さ!〜

Intervieweuse :Emi NECOZAWA

パリ、20区。下町の活気溢れるシャロンヌ通りの一角に、1910年代から親子三代続く老舗オートバイショップ‘シクロ・デルケヤー'がある。パリの数あるバイクショップの中でも、モトベカンのスペシャリストを誇るこの店は、販売からメンテナンスまでパリの幾多のモトベカン愛好者を見守り、支えてきた。そのショップの奥…瀟洒なアパルトマンの1Fにあるガレージで、30年間エンジニアとして働き続けるモトベカンのプロフェッショナル、アランにフランス人にとってのモトベカンとはいかなるものなのかを聞いてみた。このインタヴューは、自らを‘モトベカン狂'と語る、あるエンジニアの心温まるメッセージ。

N-あなたがこの仕事を選んだのはどうしてなの?
僕はヴァンリュー(パリ郊外)生まれなんだけど、亡くなった父の親友が近くでバイクショップを営んでいて、小さなころからバイク好きだった僕を見た父が、その親友に頼んで14歳のときに店に弟子入りしたんだよ。そこでまず3年間、見習いとしてオートバイやモトベカンの修理の基礎、車体構造をみっちり仕込まれた。昔のバイクは、今みたいなハイテクバイクではなくて、ひとつひとつが手作業で作られたものだったから、仕事がすごく楽しかったな。ガレージに長く乗られたモトベカンを修理に持ってくるお客さんがやってきて「やあ!調子はどう?」なんておしゃべりしながら修理するんだ。のんびりしていていい時代だった。TVもなくて、娯楽も少ない時代だったから、休みの日はみんなで自転車やモトベカンにお弁当をつんで、よくピクニックに出かけたものさ。‘シクロ・デルケヤー'のガレージにきてからは、かれこれ30年だけど、エンジニアとしては、気がつけば42年間もバイクに携わってきた。今では長年の経験も手伝って、なんでも修理できるようになったよ。特にモトベカンのことなら僕に聞け!っていう具合にね。

N-「小さなころからバイク好き」って、何歳くらいからモトベカンに乗り始めたの?
6歳のときにはもう乗っていたな。そう、こんなちいさなときだよ。(と、6歳のころの自分の背丈を手でしめすアラン)今はもうパリ郊外も開発が進んで町になってしまったけれど、僕が6歳のときは自然がいっぱいで、人のいない公道やら山道で父と一緒に練習してたんだ。

N-今まで何台くらいのモトベカンに出会ってきたの?
うーんと…修理車両も含めて1000台、いや2000台は関わってきたよ。とにかく毎日の生活にも仕事でもモトベカンに乗らない日なんか1日もなかったよ。僕の生活にはかかせない相棒なんだ。多分これは僕だけじゃなく、フランス人の多くがモトベカンと共に大人になって、人生を走ってきているんじゃないかと思う。

N-フランス人は14歳(モペットに乗れる最低年齢)になると、まずモトベカンを両親からプレゼントされるって聞いたけど、本当?
今は交通機関が発達してしまって、多少事情が変わってきているかもしれないけれど、特にひと昔前はそうだったんだ。今でも‘フランス人が手にする最初のモーター付乗り物'はモトベカンだったり、他のモペットだったりするのは変わらない。‘子供の乗り物'としては贅沢だけどね!贈る側の親たちも若いころ、そのまた自分たちの親にプレゼントされているからやっぱり自分の子供にも乗ってもらいたくなっちゃうんだろうね。モトベカンに乗って学校に通い、買い物に出かけ、好きな女の子とデートする。30代以上の‘モトベカン世代'のフランス人には、そんな思い出もいっぱいつまったモペットだから、長年フランスで愛されているんだ。

N-私が始めてモトベカンを見たのは、かれこれもう15年も前、フランス映画の中だったんだけど…
そうそう。よく登場するよね。やっぱり‘フランスの象徴'みたいな乗り物だから、映画監督もリアルなフランスの日常風景を表現するのにモトベカンを使いたがるんだ。そういえば3年前、CANAL+(カナル・プリュス)っていうフランスのTV局が、うちのガレージから年間30台ものモトベカンを借りて、映画やTVドラマの撮影に使っていたよ。

N-ああ、CANAL+(カナル・プリュス)って、よく映画のスポンサーなんかもしていることで有名なTV局だよね。
そう、それ。映画といえば、日本でも流行ったのかな?‘アメリ・プーラン'(映画‘アメリ'の仏題)で、ニノがブルーのモトベカンに乗ってたよね。モンマルトルの坂を、こう、すいすい〜っと走ってさ。あれがまさに‘パリの日常'だよね。キミもパリでモトベカンに乗ってるけど、どう?

N-私はね、セーヌ川岸の道をよく走るんだけど、ときどき本当に感動しちゃうの。「ああ、映画の中にいるみたいだ」って。モトベカンをパリで乗ることは、モペット好きの私の夢だったから。ルーブル美術館を左手に、セーヌ川をはさんで右手にはオルセー美術館。街全体が芸術品のようなパリには、本当によく似合う美しい乗り物だとしみじみ思う。それにモトベカンに乗っていると、本当に毎日いろんな人から声をかけられるの。「キミのモトベカンはなんて状態がいいんだ!僕も持ってるよ。」なんてね。
ああ、そうだろうね。今のハイテクバイクにはない‘走りの楽しみ'があるよね。スピードはハイテクバイクにはかなわないけど、モトベカンにはそれは必要ないと僕も思うんだ。自分のペースで走って、街をゆっくり眺めて、風を感じて、木漏れ日を浴びながら乗る。乗り物本来の楽しみとエスプリに満ちているよね。モトベカンに乗っているときは、古きよきフランスが蘇ったような、そんな気分になる。街でキミに声をかけてくる人たちも、東洋人のキミがぴかぴかのモトベカンに乗って、そのエスプリを理解していくれていることに、フランス人の誇りと喜びを感じるんだよ。「どうだい!僕らの国のナンバーワン・モペットの乗り心地は」ってさ。

N-そうやって声をかけられるたびに「フランス人にとってのモトベカンって一体どうゆう存在なんだろう?」っていつも思うんだけれど。
ノスタルジック、誇り、フランスの乗り物の象徴、この3つかな。それぞれが持っている子供時代のなつかしい思い出をモトベカンが蘇らせるんだ。車体もすごく洗練されていて、クラシックなスタイルなのに丈夫でよく走るから親子二代にも渡って乗っている人も少なくない。そうゆう見た目だけじゃないモトベカンをフランス人は愛すんだ。合理主義のフランス人に気にいられるのは、実はとても難しいことなんだよ。きれいなだけじゃ、フランス人は決して認めてくれないからね。

N-最後に、あなたが一番好きな乗り物はなに?
えっ、そんな質問するの?!モトベカンに決まってるじゃないか(笑)とくに僕はブルーが好きなんだ。一生こいつに乗り続けるつもりだよ!キミもだろ?

N-もちろん。今日はモトベカンの素敵な話を沢山してくれてメルスィ!アラン。

P r o f i l
Alain WESTERMANN (アラン・ウェステルマン)
1948年1月18日、パリ郊外のLaghy(ラニー)生まれ。モトベカン・エンジニア。妻、11匹の猫と暮らす大の猫好き。